神経症が「治る」ということ
森田療法で「治る」ということには、二つの意味があります。
狭い意味で治るとは、「神経質の症状からの回復・解放」であり、
広い意味で治るとは、症状から解放された後の「人間としてのさらなる成長」です。
このように、「治る」ということをより広い意味でとらえているのが、森田療法と比較されることの多い「認知行動療法」にはない特徴の一つと言えるでしょう。
症状からの回復・解放とは
1、症状がなくなるのではなく、症状に対する「とらわれ」や「はからい」がなくなること赤面恐怖の人であれば、赤面しなくなることがゴールなのではありません。
赤面に対する「とらわれ」や「はからい」がなくなることが治るということなのです。
顔が赤くなるのが当たり前な場面で赤面しても、自然なことなので抵抗がありません。
2、誤った認識が正され、「事実」を理解するようになること
誤った認識とは、たとえば「人前で緊張するのは自分だけだ」というような主観的な偏った認識のことです。
この認識が正され、「人前に立てば誰でも緊張するものだ」という人間の感情の自然な事実に気づきます。
3、症状(不安)や自己を受容するようになること
症状(不安)に抵抗しないようになり、自分と和解できるようになります。
これが「あるがまま」です。
4、主観よりも客観的事実を重視するようになること
苦悩や苦痛といった自分の主観ではなく、目的や行動、事実に目が向くようになります。
気分に翻弄された「気分本位」の行動が改められ、「目的本位」や「事実本位」に基づいた行動が取れるようになります。
5、生活態度が発展的になり、「生の欲望」を発揮できるようになること
やりたいこと・やる必要のあることが次々出てきて、症状を省みている暇なく、欲望にそって行動するようになります。
人間としての成長とは
自我が安定し、自分以外の対象に貢献したいと思うようになること
森田正馬は、いまだ悩む人たちに対する「共感」や「慈悲」の心、あるいは「他者への貢献」といった行為の重要さを挙げています。
森田療法理論を学ぶ生活の発見会が「自助グループ」である基盤はここにあるとも言えるでしょう。
「治る」プロセス
「治る」過程とは、「我」が拡大していくプロセスでもあります。
つまり、自分の興味関心やエネルギーが、自分だけのことから、次第に他者や対象へと拡がっていくプロセスです。
その過程に、「他者に手を差し伸べる」行為が大きく関わっています。
手を差し伸べることの意味
「症状からの回復・解放」と「他者に手を差し伸べる」行為は相互促進的です。
つまり、症状からの回復が始まると、自分や自分の症状へのとらわれから徐々に脱し、他者に手を差し伸べられるようになり、他者に手を差し伸べることが、ますます症状からの解放を促すのです。
(助力者原理=ヘルパーズプリンシプル)
全治
森田療法で「治る」とは、このように自分の悩みから脱するだけではなく、同じように悩む人に共感でき、その人たちが悩みから脱するために、手を差し伸べられるようになることでもあります。
「治る」過程で、「我」は、わが身一身から家族、コミュニティ、自然万物と拡大していきます。
これが「全治」ということです。
《参考文献》
原田憲明(2011)「治るということ」『症状からの回復とヘルパーズプリンシプル』NPO法人 生活の発見会