Ⅱ原著森田に見る「治る」とは②
感じとる原著森田学習会 吉澤 隆
”マイナス”から”プラス”へ一気に進むことをねらっている
では、森田理論ではどのような見方をしているのでしょうか。原著森田を読むと、本来の森田理論ではそのような“二段階方式”的な見方はしていないことがわかります。そうではなく、この「“マイナス”のレベル・状態」から「“プラス”のレベル・状態」に一気に進むことを志向している、あるいはねらっている、と見ることができます。森田理論ではつねに「プラスの領域」を見据えながら、いろいろなことを考えているということです。
別の言い方をすれば、森田理論では決して症状克服を最終ゴールとはしていない、ということです。症状克服のみを目指した療法ではない、ということです。
ただし、途中段階を一切経ずに、短時日のうちに「“プラス”のレベル・状態」に行こうとしているのではありません。森田先生の時代にも、入院療法があり、その中では絶対臥辱等いくつかの治療段階を設定するなど、段階を踏んだ対処はなされています。つまりは、あくまでもつねに「プラスの領域」を見据えながら、最適な途中段階というものを考えて設定しているということだろうと思います。
生活の発見会の活動でも、「“プラス”のレベル・状態」という意識を持ちながら、具体的な学習アプローチとしては、二段階的なものでかまわないと思います。つまり、当面の症状のとらわれからの開放と生活の再生についてまずよく学び、次に、原著森田のようなものにも触れ、生涯学習をしていくというような学習スタイルです。
なおこの際、「“マイナス”のレベル・状態」から「“±0”のレベル・状態」へ至る学習なり、活動の期間は途中段階の一つでしょうから、「“±0”のレベル・状態」から「“プラス”のレベル・状態」へ至る期間と比べれば、短いのが普通だと思われます。というのは、神経症の悩みに対して森田理論は実に有効に作用するので、比較的短い期間で軽快し、その後の人生がたっぷりと残されているからです。生涯を通した治癒・学習過程全体としてみれば、後者が主体となるということは明らかです。
したがって、当面の苦しい状況を抜け出したならば、できるだけ早期に“プラスのレベル・状態”に目を向け、そのような意識を持ちながらやっていったらいいと思います。
メリットや効果
ではこのような見方をしっかりと持つことにより、どのようなメリットや効果があるのでしょうか。一つは、症状そのものから意識を離す効果です。森田理論の特徴の一つでもある「意識の外向化」ということです。より早い段階で上記のような見方と出会うことにより、内向きだった意識が外界のことがらに向いていくという治癒経過が、より確実に、より力強く訪れることでしょう。このような「“プラス”のレベル・状態」を指向した意識・態度を続ける結果、症状のとらわれといったことは、むしろ“副産物”的に、より早く、より確実に軽快・軽減されていくことでしょう。
もう一つのメリットは、症状のとらわれゆえに、本人は強く意識してはいないかもしれない「幸福」の実現ということに、より早く、より首尾よく近づくことになる、ということです。「“プラス”のレベル・状態」というのは、結局のところ森田理論では、「幸福」を追い求めている状態であると、私は理解しています。これが、森田療法の大きな特徴の一つであり、また真骨頂であると考えています。このことへの目を、より早く開かせてくれます。
原著森田に見る「治った」とは
次にこの「“プラス”のレベル・状態」に
ついて、少し見ていきましょう。結局のところ、森田理論が言っているのは「“生”をまっとうする生き方」ということではないでしょうか。これは、神経質傾向をもプラスに変える生き方ということができ、そこにおいては、つねに豊かな「感じ」が伴っていて、生命の躍動感に満ち溢れた状態といえると思います。
また、症状のとらわれが強かった時と異なり、過不足のない「人間性の理解」ということが深まっていると思われます。言い換えれば「人間性の成長」が達成され、続いている状態ということでしょう。こういった状態が原著森田に見る「治った」ということの一側面ではないかと思っています。
さらに良いことには、原著森田では多くの場合、こういったことを説教や説明の形ではなく、生きた具体的事例をもって、私たちにわかりやすく提示してくれています。
このような考えや見方を持ちながら、森田理論、特に原著森田に接していけば、非常に有効な生涯学習の一つになりうると考えています。