『鈴木知準診療所における入院森田療法』ー体験者の記録ー

三恵社(2016/3/20)
正知会(編) 定価:2,100円


〜森田入院施設における『打ち込み的助言』の実際〜新刊本から学べるものは何か〜

1 はじめに
 私は3年くらい前に過去の入院森田療法施設について関心を抱くようになった。それぞれ何か共通点があるはずだと思い森田保存会やOB啓心会にも参加させてもらった。
 今年3月、かつて自分が入院した診療所の元入院生(正知会)30名の体験記集が発行された。『鈴木知準診療所における入院森田療法』―体験者の記録―である。この本には、入院中の作業の様子が詳しく述べられている。我々が期待する症状への対処法という類のものは見当たらないが、学ぶべきことが多いような気がしてならない。自分も執筆した。
 そこで、この機会に、この本について簡単にご紹介したい。書店やアマゾンで買うことができるので、ぜひ読んでいただきたい。
 ちなみに、鈴木知準診療所(=龍医院)は今年3月末で閉院した。

2 正知会との奇跡的な出会い
 2012年の秋、東京大学で開催された日本森田療法学会で生泉会が発表したとき、自分は裏方として参加した。そのとき正知会のメンバーも発表していたことを初めて知り驚いた。
 正知会(しょうちかい)は、東京で研究会と座談会を毎月交互に開催している。年代は60〜70才代が中心で高齢者が多くなってきたことから、何か書き残そうと、体験記集を制作することになったのである。

3 新刊本の特徴
 特徴として三つ挙げたい。まず、書く内容は、症状ではなく鈴木先生からどのような言葉や指導を受けたかを詳しくと、注文がつけられた。この結果、鈴木先生の指導ぶりを窺い知ることができ、理解が深まった。
 二つ目は、目次で判るとおり、執筆者の掲載順序が入院年度の順番になっているが、このねらいは、鈴木先生がご自身の年令とともにどのように深化したかを、学ぶことにあったようである。
 三つ目は、現役の精神科医や心療内科医をはじめ実名で執筆している人が多いこと。現役時代の会社名や役職まで公開している人もいる。

4 鈴木先生の言葉;「遮断の環境」について(190頁から抜粋)
 「我々がこの世で生きていく上で、嫌だと思うことにぶつかる。たとえば入学試験。嫌に決まっています。けれども、ちょっとその勉強に手を出していったら後は行なわれて、入学試験に受かって行くだけです。
 それと、嫌だと思ってはいけないとか、今こそ勉強しなくては、と思うとかえって心の葛藤を起すからこれもいけない。嫌に決まっていますから、ちょろんとやるのです。たとえば心臓不安でも、対人でも、頭がぼけて勉強できないのでも、そういうことを背負いながらちょろっとそれに入って行く。後は頭が動き、顔が勝手に表情し、声が勝手に出て行くだけです。そういう心の動きをどうしたら打ち出されるか、ということです。
 そのために、ここではできるだけ嫌なことをやってもらっています。やらなければ損です。自分の家でこういうことはまずできませんね。
 ですから森田先生の考えられた「遮断の環境」での神経質の治療は、傑作だと思っています。遮断の環境でないと、どうしてもそこが行なわれないのです」。

5 おわりに
 新刊本には、鈴木先生の「打ち込み的助言」が想像した以上に目についた。ふと水谷啓二氏が啓心療で使っていた厳しい「言葉」を思い出した。社会経験の少ない若い人が多かったから必要だったのだろう。そして、強迫行為に対しては「動きを早く」という「打ち込み的助言」が効果があった、と九州大学の田代信維教授も言っているという。また、退院後に「追体験」で通う人の多いのも目についた。
 まとまりのない文章ですが、いま一度「森田で何が一番大事か」について考えたいと思う。
(生泉会 藤田嘉信)